「しょうゆ味の思い出」エッセイ入賞作発表
全国の醤油事業者が参画したしょうゆ情報センター企画により公募されたエッセイの最優秀賞他入賞作が10月1日「醤油の日」に発表されました。 「しょうゆ味の思い出」エッセイに国内、海外から1,200余の応募があり、作家の立松和平さんを審査委員長にNHKプロジェクト21のスタッフによる厳正な審査の結果52篇の応募作が選ばれ、エッセイ集「しょうゆでホッ~これだけは伝えたい52の思い出~」に収載。その中から次の方々が入賞されました。 最優秀賞 岩﨑勝様 「海苔弁」新潟県西頚郡 優秀賞 桑田よし子様 「父とかき餅」北海道札幌市 優秀賞 雨宮一子様 「涙で味がわからなかった醤油」千葉県船橋市 優秀賞 中村弘行様 「四季・たまり礼賛」東京都荒川区 エッセイ集「しょうゆでホッ~これだけは伝えたい52の思い出~」はNHK出版より発行され10月16日から全国の書店で発売されています。 ■ 最優秀賞の 岩崎 勝さん(71歳)「海苔弁」の要旨 中学時代の海苔弁はお昼に食べる頃には、海苔のうま味を吸った醤油が白いご飯に染み込んで、何とも言えない味が醸し出された。その岩海苔は、冬の海で母親が腰まで海水に浸かりながら摘んだものです。天日で乾かした手づくりの海苔。自家製の醤油。 真冬の岩海苔摘みを欠かさなかった母が急逝して17年。その頃から、磯焼け現象が起き岩海苔が全滅した。いま、格段においしい醤油が容易に手に入るようになったのに、肝心の岩海苔が採れなくなり、海苔弁は幻になってしまった。 「短い文章の中に痛切な思いがある」(立松和平審査委員長評)。 ■ 優秀賞の 桑田 よし子さん(49歳)「父とかき餅」の要旨 幼いころから、父親はお正月の固くなったのし餅を額に汗をし、何枚も何枚も切って七輪の炭火で上手に焼く。かき餅の白焼きができると、次にしょうゆをからめる。しょうゆがポタポタと炭火の上に落ち、ジュウッと焦げて部屋中に香ばしい匂いが広がる。何十年も変わることなく、父はかき餅を切らすことがなかった。私が結婚してからも、空き缶にぎっしり詰めて送ってくれた。娘たちは「おじいちゃんのあられ、おかき」が大好き。その父も今は病院暮らし。市販のパック入りの餅を買ってきて、薄く切って干すと見た目は父のかき餅とそっくりになったが、歯ごたえも味もまるで違っていた。 しかし、しょうゆをからめて乾燥させる時の、あの香りだけは子供の頃と同じだった。 「読後に、醤油のぷ~んとした良い香りがただようよう」(立松和平審査委員長評)。 ■ 優秀賞の 雨宮 一子さん(18歳)「涙で味がわからなかった醤油」の要旨 就職も決まり、卒業を待つばかりであった17歳の冬。喀血し入院した。 救急車で病院に運ばれ、診断の結果は「肺結核」。入院して2週間ぐらい経った夕暮れ、雪の中を田舎(群馬)で養鶏場を営む父が訪ねてきた。雪情報を聞き、寒いだろうとカイマキを持ってきてくれのだ。そして、「病院の食事がおいしくなくても、これ、父ちゃんの家の近くで造っている醤油だ。これがあれば何でも食べられるだろ。」と醤油の小瓶を差し出す。父親が帰った後、苦労して持ってきてくれたかわいらしい小瓶に入った醤油を枕もとに置き、カイマキを体にかけ眠りにつく。その夜は父の優しさに涙が溢れてとまらなかった。現在も辛い闘病中であるが、「頑張って病気を治して、私も養鶏を手伝うからね」・・・。 「父と娘の切ない情愛が通ってくる」(立松和平審査委員長評)。 ■ 優秀賞の 中村 弘行さん(51歳)「四季・たまり礼賛」の要旨 春、勤め帰りに父親はよく鰹をまるごと買ってきて、刺身におろす。独特のニオイがあったが、すりおろしたショウガを入れたたまりしょうゆをつけて食べるとご飯がおいしかった。「うまい!」と言うと父は「そやろ、旬や」と得意そうだった。夏は伊勢湾のアサリを中華鍋に入れ、酒を振ってたまりしょうゆで味付けをする。秋はキノコである。 たまに松茸がとれると、父は七輪で焼いた。途中で松茸を二つに裂き、少量のたまりしょうゆをたらすと、しょうゆと松茸の香りが溶け合い一つになった。冬は自然薯を掘りとれたての卵を入れ、たまりしょうゆをちょっとたらしてかき回す。熱々のご飯にかけると何杯でも食べられた。・・・・ 「一滴の醤油がなんと大きな世界を展開することか」(立松和平審査委員長評。)